はじめに
ご覧いただきありがとうございます。棋士の囲碁スクール 依田太陽 と申します。
高校卒業後から「こども囲碁サロン」で囲碁を教えて、今年で6年目になります。毎週たくさんの子どもたちと接し、講師ながら毎回こどもたちに元気をもらっています。
この記事は『囲碁が脳を進化させる』全3部の第2部です。第1部では、教室のこどもたちが見せてくれる成長の姿を書きました。今回は、その「現場の実感」を裏づけてくれる研究や有識者の言葉を紹介します。
「脳トレ」の川島教授が、囲碁そのものを研究している
ゲーム『脳トレ』の監修で知られる、東北大学の川島隆太教授。脳の前頭前野(「思考、記憶、感情のコントロール、意思決定などを司る」らしいです)の研究で有名な先生です。
実はこの川島教授が、囲碁そのものをこどもを対象に研究しています。日本棋院が委託し、2007年に「囲碁は考える力を向上させる」として発表された研究です。内容はとてもシンプルで、説得力があります。
- 囲碁をまったく知らない小学生(低学年が中心)が、週1回1時間 × 3ヶ月の囲碁入門講座を受講
- 受講の前と後で、認知機能(思考力・短期記憶力・総合的な作業力)を検査
- 130名分の有効データを解析したところ、3種類の検査すべてで成績が向上した
そして川島教授は、この結果を「囲碁を学んだことによって、幅広く前頭前野をはじめとする脳機能がより発達したためと考えられる」と考察しています。たった3ヶ月、週に1回のお稽古で、こどもの「考える土台」が伸びる。これは、第1部で書いた、教室で私が見てきた子どもたちの変化と、まさに重なります。
ちなみに川島教授は、「小学校児童の認知機能と感情・行動の制御能力を向上させるための囲碁介入プログラム:ランダム化対照試験のための研究計画書」(翻訳間違えていたらすみません)と題して、この後も囲碁とこどもの脳の関係を調べる研究に取り組んでいて、2012年に医学研究の専門誌にその研究計画が掲載されています。「脳トレの専門家が、本気で囲碁とこどもの脳の関係性に注目している」ということです。
脳科学者・茂木健一郎氏が語る「囲碁脳」
茂木健一郎氏も、囲碁とこどもの脳について語っています。
茂木さんは、将棋も囲碁も「頭を使うスポーツ、つまりこどもの脳を鍛えるのには最適」だとしたうえで、囲碁についてこう述べています。
「囲碁は大局観が必要なスポーツで、脳の空間認識力を司る前頭葉が鍛えられます。囲碁の広い盤面上には、その大きさと同じくらい良い手、打つべき手がたくさんある。局面も多く、ひとつに決められないくらい選択肢があり、優先順位が難しいので、『損をして得をとる』という打ち方が求められる。」
以前、『至高の決断 〜徹底比較!トップ棋士の大局観〜』という本を読んだことがあります。依田紀基は一旦置いておいて、山下敬吾・井山裕太という、まさに日本のトップ棋士が、同じ局面を前にそれぞれの『次の一手』を示していく一冊です。
自宅にあったのでちらっと目を通したことがあり、その時、これほどの打ち手たちでも、選ぶ手がはっきり分かれていたことに当時の私は妙に感心したのを覚えています。
囲碁とは、そういうゲームです。19路盤の上では、膨大な展開が存在しえます。トップ棋士でさえ答えが割れる世界で、人々は毎回自分の頭で次の手を選び続けます。これはまさに、前頭前野をフル回転させる作業です。
難関校が囲碁の全国大会で強い、というのは偶然なのか
ここで、私が興味深く感じることを一つご紹介いたします。
囲碁の高校全国大会(文部科学大臣杯)の男子団体戦では、灘高校が最多優勝校で、5連覇という記録も持っています。開成高校も、三連覇を含めて何度も全国優勝しています。どちらも、日本でトップクラスの難関校として知られる学校です。ちなみに今は仙台第二高校が三連覇中で、こちらも調べたら宮城県内トップクラスの高校みたいですね(無知ですみません)
もちろん「たまたまその学校に囲碁ができる子が集まった」という見方もできます。私も小学生のころ団体戦で優勝したことがありますが、その時は運よく高段者クラスがたくさんいたので優勝できました(突然の自語り)。また囲碁推薦みたいな形を採用している学校はあるので、その辺は無視できないです。
ただ先述の難関校についていえば、全国大会に、何ならベスト8にずっといるんですよね。一時的じゃなくて、毎年。
メンバーたちにとっては、毎年恒例の遠足なのでしょうか。もう修学旅行ですらありません。
これは、偶然では片づけられないと思います。
「頭がいいから囲碁が強い」のではなく、「幼少期から囲碁で考える力を鍛えてきたことが、学びの土台にもなっている」面が、確かにあるのではないでしょうか。
囲碁が脳にもたらすこれらというのは、現場の人間の思い込みではありません。脳トレの川島教授が「3ヶ月で認知機能が伸びる」という研究を残し、脳科学者の茂木氏が「こどもの脳を鍛えるのに最適」と語り、難関校が全国大会で強いという事実もある。囲碁は「こども時代に育てたい土台の力」を、遊びながら自然に使わせてくれるのです。
私は、囲碁という習い事としての側面に大きな可能性を感じています。
ただ実際の囲碁の需要というか、年に数人しか採用されない狭き門をくぐり抜けた囲碁棋士の待遇など含めて、その能力や希少性に対してまだまだ相応のレベルに達していないと感じています。
その辺を私は変えるために少しでも力になりたいと感じる今日この頃です。
~第3部「介護に見る囲碁の可能性」へ続く~
この記事で参考にした資料
- 日本棋院「囲碁の効能」(川島隆太教授による委託研究「囲碁は考える力を向上させる」2007年)
- デイリー新潮「『将棋と囲碁』子どもにやらせるならどっち? 脳への効果は『茂木健一郎』『萩本欽一』語る」
- Tachibana, Kawashima et al. "A GO intervention program...", Trials, 2012
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