【依田紀基 自戦解説】ヨセの考え方(前編) ― どの段階からヨセがはじまるのか

目次

出典:オンライン依田塾「上達のためには絶対聞き逃せない講義」第41回(2023年9月16日)

講師:依田紀基九段

構成:依田太陽(アマ高段)


はじめに

オンライン依田塾の講義から、依田紀基九段自身の対局を題材にした自戦解説を取り上げます。お相手は大竹優七段(日本棋院・中部総本部、本因坊リーグ入りの経験もある若手有望棋士)。依田九段の黒番です。

テーマは「どこからがヨセの段階と言えるのか」。前編では、この一局を題材に語られたヨセの“考え方”――ヨセはいつ始まるのか、入ったら何に心を配るのか――を中心にたどります。実際の手の損得や終盤の決め手は、後編で取り上げます。

本人の考えや言葉の意図を曲げてお伝えしてしまわないよう、解説時の言葉をほぼそのまま文字に起こしています。


参考図1.実戦の進行 ヨセの段階は「手数」じゃない


依田紀基:

「実はこの局面、オサエまで35手しか打っていないんですけれども、もうすでにこの状態からヨセだということなんです。別に手数が、例えば100手を超えるからヨセになるかと言ったら、そうじゃないんですね。じゃあ、なぜこの時点でヨセに入っていると僕は認識しているかと言ったら、それぞれの石が安定しているからですね。」


「右下の黒も安定して、左辺の黒も安定している。右上の隅も安定していますね。左上隅の白も安定している、右辺の白も安定している、下辺の二間ビラキの石も安定している、左下の隅も安定している。だから、双方に不安な石がないんですよね。だから、もうヨセに入っているということなんです。」


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要するに、ヨセに入るということがどういう状況かというと、盤上に存在している石がすべて安定しているということですね。心配な石がない。そうなると、もうヨセということになります。

碁盤を読み込み中...

参考図2.ヨセで心を配ること


依田紀基:

「ヨセに入ったら、まず何を考えなければいけないか、心を配らなければいけないかと言ったら、地を増やすことと、相手の地を減らすことですね。」


中央というのは、この時点ではあまり見ていないですね。例えば、この黒地から真ん中に向かって地を増やそう、ということはあまり考えていない。成り行きによってはいずれ考えていくことになるんですけど、今この状態では中央は全然大きいと思っていないですね。」


「大きいのは、(AやBといった)端のところ、あるいは(上辺の)白が打ったらC、黒が打ったらDに二間にツメる、という場所です。ちなみにCやDといった手が実際何目くらいなのか、これはかなり難しいです。難しいというのは、その状況によって変わるから。まあ僕の経験からすると大体15目前後だろう、という風に感じます。例えば黒Bに打つのとDに打つのと、現時点で(どちらが大きいか)迷うくらいなので、大体同じくらいだろうと感じるというところです」


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要するに、ヨセに入った時には意識を少し変えて、より地の増減に意識を向けていくことになります。


形勢判断は、大雑把でいい


依田紀基:

「こういう場合、黒地がこれが何目で、あれが何目で、と一応、形勢判断をするわけですよね。それで、(矢印で示す)左辺は大体何目ぐらいの地なのかというと、普通に数えると20目ちょっとですね。でも、これは正確にはわからないんですよ。」


なぜ正確にわからないかというと、石の関係性によって変わるからなんですね。すべての石が影響し合っているんですよ。だから、例えばDら辺に黒石があるだけでも、左辺の黒地もまた変わってくる。右辺の状況とかも、もう全てが関連し合っているから、その盤の状況によって、1手打つごとにその価値が変わっているということなんですね。」



「そういえば、お釈迦様が昔「諸行無常」と言ったと。世の中のものって、何一つ変わらないものはないと言ったそうですけれども、要するに、価値が変わらないものってないんですよね。例えば一万円札の価値だって、一刻一刻変わっている。通帳の数字は変わらなくても、その中身の価値は世界の流れや情勢によって変わってきますよね。碁も同じなんですよ。この黒地も、あの黒地も、全部、一手一手の状況によって変わっている。人間にははっきりわからなくてもね。だから、目数は「大雑把に20目ちょっとだろう」――その程度の感覚でいいんですよね。」

碁盤を読み込み中...

前編まとめ


ヨセは手数で決まるのではなく、双方に不安な石がなくなった瞬間からすでに始まっている――これが依田九段の答えでした。そしてヨセに入ったら、(序盤よりも深く)自分の地を増やし相手の地を減らすことに心を配る。さらに、地の価値は石の関係性で刻々と変わるため、目数は厳密に数えきるより「大体これくらい」という感覚で十分、という考え方が語られました。


後編では、この一局の中終盤を題材に、出入りでの損得計算、そして勝敗を分けたポイント等、具体的なヨセの実戦をたどります。


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